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イタリア町めぐり

海から見たアマルフィ 2002年9月 地図


 船でゆくアマルフィ海岸の旅は、この上ない幸福なひとときである。船が出航するのは、ナポリから南で鉄道で1時間ほどのサレルノ。そこから、夏期を中心にアマルフィを経由してポジターノまでゆく船が、1日に6、7往復ほど運行される。

  地元の人も乗る定期船だから、けっしてゴージャスではないが、進行方向右側のアマルフィ海岸の眺めは絶品である。山がそのまま海岸線まで落ち込んでいる崖、海に向かって大きく口を開けた洞窟、かと思うと、山と海の隙間にあるわずかな平地、あるいはこんもりとした丘の中腹に、教会の塔を中心として白い家々がびっしりと建っているのが見えるのだ。
 世界遺産にも指定されたためか、夏場は以前にも増して観光客でごったがえすようになったが、それでもこの船には一度乗ってみることをお勧めしたい。


アマルフィのすぐ東にあるアトラーニ(Atrani)の町。
左側の岬を越えると、トップの写真のようなアマルフィの町が見えてくる。

2002.9

アトラーニ

アマルフィ海岸

アマルフィからさらに西へ、ポジターノ(Positano)方面に向かうと、こんなダイナミックな光景も目に入ってくる。

2002.9



 2002年9月、サレルノからアマルフィに向かう日曜朝の船は、地元の人でほぼ満員だった。前夜はサレルノでお祭りがあったらしく、夜遅くまで町全体が賑わっていた。
  それに出かけた帰りなのだろう。それにしても、若い女性やおばさんのグループも多く、みんなどこに泊まっていたのか不思議である。もしかしたら、どこかの店か海岸で夜を明かしたのかもしれない。

  そんなことを思っていると、船の右側に陣取っていた人たちがなにやら騒がしい。海岸に目をやるが、とくに変わったものは見えないし、そもそも地元の人たちが見慣れているはずのアマルフィ海岸に歓声をあげるというのも妙である。

アマルフィのドゥオーモ
▲アマルフィの中心、金色に輝くドゥオーモ。左側の鐘楼の先端付近には、マジョルカ焼の陶器がはめこんである。
  1996.6
▼中心部の広場を抜けると、細い道がずっと続いていく。
  2002.9
アマルフィの町並み

「何かあったんですか?」
  聞くと、10代後半と見える理知的な若い女性が、こちらを向いて満面に笑みを浮かべながら一言。
「デルフィーノ!」
  私にとっては初めての単語だったが、0.3秒間ほど大脳内で神経伝達物質が活発に行き来した後にわかった。
「ドルフィンじゃん!」
  私は、若い女性の肩ごしに身を乗り出して水面を見たが、もうそこには何も見えなかった。はたして、本当にイルカがいたのかどうか、いまだにわからないが、あれほど騒いでいたんだから、たぶんいたのだろう。

 というわけで、私にとってアマルフィという名を聞いて真っ先に思い出すのは、海岸沿いに展開される町々の美しい景色でもなく、階段という舞台装置が見事なあの豪華絢爛なドゥオーモでもなく、ドゥオーモに隣接した「天国の回廊」のアラブ的な均整のとれた美しさでもなく、カーブが連続しているためにあちこちに擦り傷がある大型バスでもない。
  船の甲板で乗客たちが、イルカだイルカだと、みな子どものように騒いでいる光景なのである。


アマルフィは人口数千人の小さな町。地元の人も観光客も、自然とドゥオーモ広場に集まってくる。土産物屋やバールもここに集中している。

2002.9

アマルフィの港近く



 そうそう、もう一つアマルフィで思い出すのは、ロベルト・ロッセリーニ監督の『殺人カメラ』(La macchina ammazzacattivi)という1948年作の映画である。

  アマルフィ海岸を舞台にしたこの映画では、一人の聖人が写真屋のもとにやってきて、写真に撮った人間がほどなく事故や病気で死ぬというカメラをくれる。それを手にして、写真屋は悪党や守銭奴を次々に写真に撮っていくのだが、あまりにも周囲に悪人が多くて、もうきりがなくなってくる……というロッセリーニにしては珍しく、皮肉に富んだ喜劇なのだ。
  映画の内容もおもしろかったが、そのバックにかいま見えるアマルフィ海岸のなんと素朴で美しかったことか。モノクロ映画なのだが、その澄んだ空気感が映画館までただよってくるようだった。そして、小さな岬をめぐる道を、年取った聖人がとぼとぼと歩いていく姿が目に残っている。
「ああ、いつも大渋滞の道なのに、ちっとも車が通っていない! こんな時代に行ってみたかった」


アマルフィの八百屋

あえてモノクロで撮ってみた八百屋の店先。ドゥオーモ広場の北側あたりにあった。

1996.6



 今では世界遺産になってしまったアマルフィには、ひっきりなしに大型バスがやってきて、たくさんの観光客で賑わっているが、町の中心部はほんの小さな範囲である。
 だが、せっかくここまで来たら、アマルフィだけで帰るのはもったいない。

  ポジターノまで足を伸ばす人は増えているようだが、ほかにも、ラヴェッロ、フローレ、プライアーノ、ミノーリ、マイオーリといった小さな町が山と海の間に点在しているので、時間がある方はぜひのんびりと訪ねていってほしい。どの町も、バスが頻繁に運行しているので便利である。


海岸から300mも歩くと、地元の人のための雑貨屋やら洋品店やらがあって、ごく普通の南部の町並みが見えてくる。これもアマルフィである。

2002.9

アマルフィの町の奥


  アマルフィには、船でのアクセスのほかに、もう一つお勧めがある。
  それは、半島の反対側にあるソレントから、アジェーロラを経由してくる山越えの道である。それまで平凡な道だったのが、ある瞬間から眼下に海が開け、目のくらむような崖をヘアピンカーブを描きながらバスが降りている。それはそれはまさに至福の光景である……晴れていれば、ね。



●所在地
カンパーニャ州サレルノ県
●公共交通
・サレルノから船で35分(夏期運行の高速船は20分)。1日数往復(冬期運休)。
・サレルノからSITA社のバスで1時間15分。30分~1時間おき。
・ソレント、ナポリからも船やバスの便がある。

●見どころ
・光り輝くドゥオーモと、隣接する「天国の回廊」。エメラルドの洞窟。
・船から見たアマルフィ海岸。海岸に点在する町が美しい。

●老婆心ながら
サレルノからの道は狭くてカーブが多く、観光シーズンはひどく時間がかかる。船のほうが早くて眺めがいい。ただし、運行は4月~10月なかばまで。
アマルフィの港近く 港の近く。中央左側に船着場がある。バスターミナルもすぐそば。 2002.9
2009年8月作成


 


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