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イタリア町めぐり

ピッツォ旧市街の遠景 2005年11月 地図


 ピッツォ(Pizzo)は、ティレニア海、サン・エウフェミア湾に面した小さな町である。とくに有名な観光地ではなく、人口も8000人あまり。でも、その小さな町を歩いていると、海を見下ろすスペイン-アラゴン式の塔、長方形の立派な広場、ごみごみした旧市街、切り立った崖、漁港、海水浴場などのさまざまな顔を見せてくれて、飽きることがない。

 町の北側1.5kmほどのところには、海岸の洞窟につくられた小さなピエディグロッタ教会があり、その内部には岩に彫られた多数の像があるそうだ。残念ながら、そこまで足を運ぶ時間がなくなってしまったが、写真で見るとなかなかの見もののようである。


町の中心となるレプッブリカ広場が、束の間の晴れ間に照らされた。観光シーズンはこの広場も人で賑わうのだろうか。背後から真っ黒な雲が迫っている。

2005.11

旧市街中心部のレプッブリカ広場


 さて、このピッツォ(Pizzo)の町に足を踏み入れたのは、まったくの偶然からだった。それまでは、町の名前さえ知らなかった。もしかすると、この魅力的な町を、死ぬまで知らずに終わったかもしれない。あのバスの運転手が、私の降りる停留所を忘れていなければ……。

 このときは、台地の上にある県都ヴィーボ・バレンティア(Vibo Valentia)に2泊していた。その間に、トロペーア(Tropea) の南にある丘上都市ニコーテラ(Nicotera)に行くつもりだった。
 そのために、ヴィーボ・バレンティアの中心部から、バスで最寄り駅のヴィーボ・ヴァレンティア=ピッツォ(略称ヴィーボ=ピッツォ)駅に向かう予定にしていたのだが、丘を下って駅前に行く市内バスが、予定時間をいくらすぎてもやって来ない。

 そのうちに、やはり丘を下ってピッツォという町に向かうバスがやってきた。運転手に尋ねると、駅前は経由しないが、すぐ近くを通るという。
「数分歩けば駅に行けるよ。駅に近い停留所に来たら知らせる」
 前日に駅から乗ったバスで、だいたいの位置関係を頭に入れていたので、安心してこのバスに乗ったわけである。


旧市街近くの道

広場を抜けると、いかにも南部の町という雰囲気の家並みが並んでいた。

2005.11


広場の裏にある通りには、食料品店や衣料品店が並んでいた。煉瓦造りの道路橋がいい感じ。

2005.11

中心部近くの商業地域


 確かに、バスは駅に向かって、前日来たときと同じ狭い山道を走っていった。だが、途中からどうも見慣れない平坦な広い道に変わる。

 やがて周囲に家が立て込んできて、「間違いなく通り過ぎたな」と確信。そろそろ運転手に声をかけようと思っていたときのこと、運転席で突然、彼が頭を抱えたのを見た。頭を抱えたのはたぶん片手だったろうが、もしかすると両手だったかもしれない。
 まもなくバスが停車。運転手は私を呼んでこう言った。
「通り過ぎてしまった。もうすぐ反対側のバスが来るから、それに乗るといい。駅前に行く」

 困った事態だが、意外と私は冷静であった。急ぐ旅でもないし、時間はいくらでもあったから、おもしろい寄り道をしたなと思ったほどである。
 道路の反対側にあった屋根付きのバス停に私がたどりついたのを見て、バスは発車した。

 バスの後ろ姿を見ていると、50mほど先で道を左折し、狭い急坂を海に向かって降りて行く。道端には、「←Pizzo」と記された標識が建っていた。


ピッツォの漁港と市街

ピッツォの町の中をしばし歩くと漁港が見えてきたので、迷わず坂を下ってきた。崖の上と下がなんともアンバランス。
漁港にはひと気がなかったが、猫が数匹居ついていた。

2005.11



 バスが、派手に車体を傾かせながら、坂を下っていく姿を見て私の心は決まった。
「いつ来るかわからない駅方面へのバスを待つよりも、ピッツォの町に行ってみよう!」 というわけである。

 私の直感は、久々に大当たりとなった。バスを追って坂道を降りること数分、トップの写真のような町が行く先に見えてきたのである。
 海にせりだした城砦都市の様子は、以前訪ねたことのあるユーゴスラヴィア(現クロアチア)のドブロブニクのような感じ。ちょっとスケールは小さいけど。

 トップの写真の左端あたりに見えるのがアラゴン式の塔である。かつては、この堅固な城砦が海から来る敵を防いでいたのだそうだが、その後は牢獄に転用されていたんだそうな。
 写真の中央部には、町の中心である長方形のレプッブリカ(共和国)広場が見える。2枚目の写真は、その広場から撮ったもの。バールのテラスとなっていたが、折からの悪天候で人はほとんどいなかった。また、広場の奥に、真っ白な小さい教会があるのが印象的であった。


城砦の下は、まるで別の町。夏の海水浴客は、このあたりに宿泊するようだ。左側が海である。右上に、アラゴン風の塔がちらりと見える。

2005.11

海水浴場の近く


 あとは、人口にくらべて意外に大きな町を、端から端まで見て歩いた。それが今回の写真である。夏になると城砦の下に広がる砂浜が、海水浴客で賑わうらしいが、その日はほとんど観光客の姿を見なかった。

 帰りは崖の下、海沿いを走っているローカル線に乗った。どうやら、昔はこちらが本線だったようだ。行きのバスで降り損ねた駅は、たぶん新線にできた駅なんだろう。ヴィーボ・バレンティアとピッツォの中間という不便な場所に位置している。路線自体は、直線が多くてスピードは出していたが、トンネルが多いのも新線らしい雰囲気である。
 もちろん、眺めは海辺を走る旧線のほうがずっといい。旧線とはいえ、観光地トロペーアにも駅があるので、日中でも1時間おきに走っているのが便利である。

 それにしても、たいして大きくもないのに、さまざまな顔を持っているのが不思議な町だった。バスでの出来事とともに、なぜか印象的な町なのである。


●所在地
カラブリア州ヴィーボ・ヴァレンティア県
●公共交通での行き方
・ヴィーボ・ヴァレンティア=ピッツォ駅前からピッツォ行きバスで10分。
・ヴィーボ・ヴァレンティア=ピッツォ駅へは、パオラからイタリア鉄道の特急で所要1時間。レッジョ・カラブリアから特急で1時間あまり。
・ローカル線のピッツォ駅(町の南西側・崖下)へは、ラメーツィア・テルメから所要25分。日中約1時間おき。
●見どころ
・海辺に突き出した城砦都市の様子。
・洞窟内のピエディグロッタ教会。
●老婆心ながら
トロペーア 滞在のついでに立ち寄るといいかも。
旧市街に通じる道からティレニア海を見下ろす 国道からピッツォ中心部に下る途中からの眺め。 2005.11
2011年8月作成

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