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ある週末は、エステ家の城のある町フェラーラと、モザイクの町ラヴェンナに行こうと思い立った。フィレンツェからかなり離れてはいるが、日帰りできない距離ではない。
気の早い私は、前の日から、ローカル線の車内にいる自分に思いをはせていた……。
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ここフィレンツェ駅には、用事がないときにも、よく立ち寄ったものだった。行き交う人と列車を見ているだけで飽きない。 ふるさとのなまりなつかし停車場に通った石川啄木の気持ちがわかるような気がした。 撮影 : 1981/11 Firenze |
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当日、駅に着いたのは発車まぎわ。ホームには、2両だったか3両編成だったかのフィアット製ディーゼルカーがすでにエンジン音を響かせていた。 息を切らして車内に入ると、すでに座席はうまっていた。 ----なんなんだ、このこみようは……。 出だしから、予定外の展開である。せめて寄りかかれるところに行こうと、人をかきわけて、ようやくたどりついたのは、年配のおばさん3人組が陣取るボックス席横の場所だった。前夜に夢想した光景とは、かなりちがった雰囲気のまま、列車はフィレンツェをあとにした。
それにしても、ていねいに一つ一つじっくりと停まっていく列車である。盆地のへりをぐるりとまわり、フィレンツェの北にあるボルゴ・サン・ロレンツォに着いたときには、いいかげん眠くなってきた。駅のそばに、大きく「ルフィーノ」と書かれたワイン倉庫らしき建物が見えたことを覚えている。
どうやら、そのなかの一人が最近フランスのパリに行ったらしく、さかんに「パリージはよかった」「パリージは美しい」と繰り返している。ちなみに、パリージ(Parigi)とは、イタリア語でパリのことである。
そうこうしているうちに、列車は坂をのぼりつづけ、トンネルをいくつもくぐっていった。そして、かなり長いトンネルを出たときである。急に窓の外が明るくなったような気がした。 |
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フェラーラの中心部、エステ家の城のまわりは、何百年も前から時間が止まったような場所だった。 そこで見かけたカッコイイおじさん3人。 撮影 : 1981/11 Ferrara |
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列車は10分ほど雲海の上を走っていただろうか。やがてまた長いトンネルに入り、そこを抜けると、雲海はもう見えなくなってしまった。トンネルとトンネルのあいだのひとときの別世界であった。
もちろん、ラヴェンナやフェラーラの町もよかった。だが、私の目には、このほんのひとときの光景が焼きついて離れないのである。 | |
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